残留農薬基準がのネガティブリスト制からポジティブリスト制へ移行した背景と意味

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現在厚生労働省が定めた残留農薬の使用基準を記載した農薬のリストはポジティブリストです。以前はネガティブリストでした。

ポジティブリストとネガティブリストではどのような違いがあるのでしょうか?またネガティブリスト制からポジティブリスト制へ移行した背景はどのようなものでしょうか?ここではそれぞれのリストの特徴と制度が移行された背景を解説します。

残留農薬基準とは?

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食品に残留してもいい農薬の量は食品衛生法に定められています。対象になる食品はすべての食品です。この中には加工食品も含まれています。残留農薬基準では食品別、農薬別に細かく定められており、基準値は食品安全委員会が科学的な根拠に基づいて設定します。

参考にされる基準は国際基準であるコーデックス基準や農薬取締法に基づく登録保留基準などです。また、米国やカナダ、オーストラリアなどの基準も参考にされます。農薬が基準値以上に残留しないために農林水産省では使用基準を定めています。

日本の農業や畜産業などすべての食品生産者はこの基準を守ることが義務付けられています。国内の農産品や加工食品などから基準値以上の残留農薬が見つかった場合にも販売等が禁じられるのです。輸入品にもこの基準は適用されます。

輸入品の場合には、日本国内に荷物が到着してから、ランダムに検疫所の指示で農薬検査が行われます。もし、この検査で基準値以上の農薬が見つかった場合には、それ以降輸入手続きを進めることができません。その貨物は積み戻されるか、廃棄されるかになります。

この場合には、日本国内の法的な輸入者の責任は、国内の生産者と同等の責任を負わねばなりません。そのため検査費用などは輸入者が負担することになります。

残留農薬ネガティブリストとは

ネガティブリスト制では農薬が残留すること自体には規制がありませんでした。しかし、有害だと認められた特定の農薬にだけ、一定以上の量が残留してはいけないと基準を設けていたのです。そういった特定の農薬をリストにしたものがネガティブリストです。

ネガティブリストも食品別に厳しく残留基準が定められていました。特定の農薬とはいうものの決して少数ではありませんでした。非常に多くの農薬に関して何百種類もの食品の残留基準値を設定していました。日本国内の農業や畜産品に関してはあまり問題も起きず、長年ネガティブリスト制が運用されていたのです。

日本で開発された農薬に関しては、関連省庁も把握しやすく有害性に関するデーターも多かったので、ネガティブリスト制でも支障が起きにくかったからです。ネガティブリスト制の運用に限界が見え始めたのは、海外からの食品輸入が急増した時期でした。

特に農産物の輸入が増えたころから、ネガティブリスト制では国民の健康を守ることができないと判断されました。

ネガティブリスト制の問題点とポジティブリストへ移行したきっかけ

ネガティブリスト制では、リストに載せられていない農薬の残留値は規制できませんでした。

そのため、リストに載せられていない農薬を多めに使って農産物などにつく害虫を殺したのです。しかし、実際にはネガティブリストに載っていない農薬でも多量に残留していれば健康被害が出る可能性が十分にあります。

しかも、新しく開発された農薬の場合には、健康被害に対するデータが十分ではありません。つまり、どの程度の健康被害が出るものか予測できないという困った状況でした。特に輸入品でこのことが大きな問題になりました。

海外でどのような農薬が開発されたかに関しては日本の関連省庁がすべてを把握することは困難です。実際日本向けの食品を開発製造する海外の食品生産者の中には、意図的に日本のネガティブリストに載っていない農薬を開発して日本の法律をすり抜けようとするものもありました。

殺傷力の強い農薬でも残留農薬基準を定められていない農薬ならどれだけ多く残っていても輸入を禁止することができなかったのです。そのため、残留農薬基準のあり方そのものが再検討されました。その結果、食品衛生法が改正され残留農薬基準にポジティブリスト制が導入されたのです。

残留農薬ポジティブリスト制とは?

残留農薬ポジティブリストは本来農薬の残留は禁止であるが、一定のものだけは基準値以下の残留を認めましょうというものです。ポジティブリスト制に記載されていない農薬は残留してはいけない制度です。しかし、実際には一律基準値が設けられているため、いわゆるゼロ基準ではありません。

新たに開発された農薬はポジティブリストに名前が記載されるようになるまでは一律基準値以上の残留が確認された場合には残留農薬違反となります。残留農薬違反の食品は販売することができません。ネガティブリスト制に比べると非常に厳しい規制となりました。

日本で行われている残留農薬検査

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国内で販売されている食品に関しては主に自治体が検査をします。よく行われているのは、自治体の保健所がスーパーや工場、営業倉庫などからランダムに収去して検査をする方法です。検査予定数は自治体の監視指導計画で定めています。

輸入品の場合には輸入通関手続きの経過の中で検疫所が行います。輸入食品は必ず検疫所へ届け出なければなりません。検疫所では届け出があった輸入食品の中からランダムに選んだ食品のモニタリング検査を行います。検査の予定数量などを定めているのは輸入食品監視指導計画です。

違反頻度の多い品目、輸出国、輸出者、輸入者などの場合にはランダム検査ではなく、輸入のたびに毎回検査する方法を取ります。違反が確認されると、廃棄や積み戻しの命令が出て、当該の輸入者は原因の究明と再発防止のための対策を講じた文書を提出しなければなりません。

これら行政が行う検査の他に生産者や輸入者、販売者などが行う自主検査もあります。生産者や販売者は、もし市場で行政機関によって収去された自社製品が農薬違反の確認を受けた場合には非常に大きな損失をこうむります。

当該商品の廃棄以外にも迷惑をかけた取引先への賠償問題、社会的信用の失墜などの問題が起き、会社規模によっては倒産や廃業に追い込まれることもありえるのです。そのため、生産前には原料の残留農薬検査をし、製品に関して市場に流通させる前に自主検査をする企業は非常に多いのです。

行政や検疫所などの依頼によって残留農薬の検査をする検査機関の多くは、一般企業や生産者からの自主検査も引き受けてくれます。

参考サイト→残留農薬 ... 残留農薬検査、農薬・食品分析、食品検査 - キューサイ分析研究所(QKEN) | よくあるご質問